お墓の引っ越しは、法律上「改葬(かいそう)」と呼ばれる手続きです。市区町村長の許可を受けて行います。ここで多くの方がつまずくのが順番です。改葬許可の申請書には「改葬の場所」を書く欄があるため、移転先が決まっていないと申請できません。お墓をなくす墓じまいとは、進め方が逆になります。
遠くて通えない。子どもの近くに移したい。理由はさまざまです。
この記事は、合同会社Zekkが運営するお墓清掃サービス「まもりて」での経験がもとになっています。「移すか、そのままにするか」で迷っている段階のご相談を、よくいただきます。
ここでは法令の条文と最新の統計をもとに、改葬の全体像を整理します。
お墓の引っ越しは「改葬」という手続きです
まず言葉を揃えておきます。
墓地、埋葬等に関する法律の第2条第3項に、定義が置かれています。改葬とは、埋葬した死体を他の墳墓に移すこと、または埋蔵・収蔵した焼骨を他の墳墓や納骨堂に移すこととされています。
つまり遺骨の引っ越しです。墓石ごと運ぶという意味ではありません。多くの場合、旧墓の墓石は撤去し、移転先では新しく用意することになります。
そして同じ法律の第5条第1項で、改葬を行おうとする者は市町村長の許可を受けなければならないと定められています。勝手に遺骨を移すことはできません。許可が下りると、第8条により改葬許可証が交付されます。

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改葬は年17万件超|4年で約1.5倍に
珍しい選択ではありません。件数は毎年のように過去最多を更新しています。
厚生労働省の衛生行政報告例で、全国の改葬数が公表されています。推移は次のとおりです。
| 年度 | 全国の改葬数 | うち無縁墳墓等(再掲) |
|---|---|---|
| 令和2年度(2020) | 117,772件 | 2,718件 |
| 令和4年度(2022) | 151,076件 | 3,414件 |
| 令和5年度(2023) | 166,886件 | 3,651件 |
| 令和6年度(2024) | 176,105件 | 3,006件 |
出典はe-Stat「衛生行政報告例 令和6年度 第4章 生活衛生 第6表」です。
令和6年度は176,105件で、令和2年度の117,772件から約1.5倍に増えています。参考までに、同じ年度の火葬件数は1,674,137件でした。
数字だけ見れば、決断した方がこれだけいるということです。ただし、増えているから正しいという話ではありません。移さずに管理を続ける方法もあります。
判断材料はお墓を維持する方法|墓じまいせずに負担を軽くするにはにまとめました。距離が主な理由なら遠方のお墓を管理する方法5選|代行・サブスク・墓じまいを比較もご覧ください。
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順番を間違えないでください|移転先が先です
ここが本記事のいちばん大事なところです。移転先を決める前に、役所へ行っても手続きは進みません。
理由は申請書の書式にあります。同法施行規則の第2条第1項で、改葬許可の申請書に書くべき事項が定められています。
- 死亡者の本籍、住所、氏名及び性別
- 死亡年月日
- 埋葬又は火葬の場所/その年月日
- 改葬の理由
- 改葬の場所
- 申請者の住所、氏名、死亡者との続柄及び墓地使用者等との関係
5つ目に注目してください。「改葬の場所」=遺骨をどこへ移すのかを書く欄があります。受入先が白紙のままでは、この欄が埋まりません。だから移転先が先なのです。
申請するのは「今お墓がある市区町村」です
もうひとつ、間違えやすい点があります。申請先は引っ越し先の役所ではありません。
法第5条第2項に、改葬に係る許可は「死体又は焼骨の現に存する地の市町村長」が行うと定められています。つまり今、遺骨が納められている場所の市区町村です。
九州のお墓を兵庫に移すなら、申請先は九州側になります。遠方の場合は郵送で受け付けている自治体もありますので、電話で確認してください。

法令上の添付書類は限られています
施行規則の第2条第2項に、申請書へ添える書類が挙げられています。
| 法令の定め | 実務でいうと |
|---|---|
| 墓地等の管理者が作成した、埋葬・埋蔵・収蔵の事実を証する書面 | 今のお墓の管理者に書いてもらう埋蔵証明書 |
| 墓地使用者等以外の者は、墓地使用者等の承諾書など | 名義人が別の親族なら、その方の承諾書 |
| その他市町村長が特に必要と認める書類 | 自治体ごとの追加書類。受入証明書はここに当たります |
ここは正確にお伝えします。移転先が発行する受入証明書は、法令に明文で挙げられているわけではありません。3つ目の「市町村長が特に必要と認める書類」として求める自治体が多い、という位置づけです。
ですから必要書類は自治体によって差が出ます。ホームページで様式を確認するか、窓口に電話して「改葬許可申請に何が要りますか」と聞いてください。
手続きの5ステップ
全体の流れを並べます。①と②を先に済ませるのが、遠回りに見えていちばん早い進め方です。
①と②が先。ここを飛ばすと③の申請書が書けません
あとから覆ると、工事も手続きもやり直しになります
申請書に「改葬の場所」を書くため、ここが先です
今お墓がある市区町村の窓口へ。許可証が交付されます
閉眼供養と石材店の工事。更地に戻して返還します
許可証を提出して納骨。開眼供養を行うこともあります
① 家族・親族に相談する
いちばん軽く見られがちで、いちばん厄介になるところです。工事が終わってから反対されると、元には戻せません。
とくに声をかけておきたいのが、そのお墓にお参りしている親族です。移した先が遠くなる方にとっては、お参りできなくなる話でもあります。菩提寺がある場合は、住職への相談も早めに済ませてください。
② 移転先を決めて契約する
先ほどの理由で、ここが③より先です。一般墓のほか、納骨堂、樹木葬、永代供養墓といった選択肢があります。
形ごとの違いはお墓の種類一覧|一般墓・樹木葬・納骨堂・永代供養の違いで確かめられます。承継者がいない場合は永代供養とは?費用・種類・選び方を徹底解説が手がかりになります。
屋内を検討するなら納骨堂の費用相場とタイプ別比較|屋内墓地の選び方を、自然に還る形なら樹木葬の費用と種類を比較|後悔しない選び方をご覧ください。
③ 改葬許可を申請する
今のお墓がある市区町村の窓口へ、申請書と添付書類を提出します。許可が下りると改葬許可証が交付されます。
先に今の墓地の管理者から埋蔵証明書をもらう必要があります。この連絡が、菩提寺に改葬を伝える最初のきっかけになることが多いのです。①の相談を済ませておくと、ここが穏やかに進みます。
④ 遺骨を取り出し、旧墓を撤去する
閉眼供養を行ってから、石材店が墓石を撤去します。区画は更地に戻して墓地の管理者へ返還するのが一般的です。
古いお墓では、遺骨が土に還っていたり、骨壺が傷んでいたりすることがあります。取り出した遺骨の状態によっては、洗浄や乾燥が必要になる場合もあります。
⑤ 新しい場所に納める
改葬許可証を移転先の管理者に提出し、納骨します。開眼供養をあわせて行うことも多くあります。
ここまでで、早くて2〜3か月。親族の相談や移転先選びに時間がかかると、半年以上になることもあります。

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費用は「出ていく側」と「入る側」に分かれます
改葬の費用は、2か所で発生します。片方だけ見積もっていると、総額が大きくずれます。
| 区分 | 主な費目 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 今のお墓(出ていく側) | 改葬許可申請の手数料/閉眼供養のお布施/墓石の撤去・更地化工事/遺骨の取り出し | 石材店に現地を見てもらう。区画の広さと搬出のしやすさで差が出ます |
| 新しい場所(入る側) | 永代使用料/新しい墓石または納骨堂の使用料/納骨と開眼供養/年間管理費 | 資料請求して書面で確認。その後ずっと続く年間費用も見ます |
| その他 | 遺骨の運搬/書類取得の実費/親族の交通費 | 遠方ほど積み上がります |
金額は条件で大きく変わるため、ここでは総額を断定しません。撤去工事の費用感は墓じまいの費用はいくら?相場と内訳を分かりやすく解説が近い内容です。あわせて、移転先で毎年かかる管理費の考え方はお墓の管理費とは?相場の調べ方と払えないときの対処法にまとめました。
菩提寺を離れる場合、離檀料を求められることがあります。金額や支払義務について争いになったときは、弁護士や行政書士といった専門家にご相談ください。この記事では一般的な流れの説明にとどめます。

墓じまいとの違い|「移す」か「なくす」か
混同されがちですが、目的地が違います。
| 改葬(お墓の引っ越し) | 墓じまい | |
|---|---|---|
| 行き先 | 別の墳墓・納骨堂へ移す | お墓そのものをなくす |
| 進める順番 | 受入先を先に決める | 遺骨の行き先を決めてから撤去 |
| その後の管理 | 移転先で続く(年間費用あり) | 形によっては不要になる |
| 向いている場合 | 引き継ぐ人がいて、近くで守りたい | 承継者がいない、将来も通えない |
実務では重なる部分もあります。墓じまいをして遺骨を永代供養墓へ移す場合、手続きとしては改葬許可が要ります。言葉は違っても、役所での動きは同じです。
なくす方向で考えるなら墓じまいの流れ|必要書類と手続きを5ステップで解説が参考になります。お墓を建てずに供養する形はお墓を建てない供養の選択肢7つ|費用と特徴を比較にまとめました。
判断を先延ばしにして手を入れないままだと、どうなるか。それはお墓を放置するとどうなる?無縁墓・撤去のリスクと対策で確かめられます。

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よくある質問
Q. 改葬許可はどこの役所に申請しますか?
今、遺骨が納められている場所の市区町村です。法律で「死体又は焼骨の現に存する地の市町村長」が許可を行うと定められています。移転先の役所ではありません。遠方の場合は郵送で受け付けているかを電話で確認してください。
Q. 移転先が決まる前に申請できますか?
できません。改葬許可の申請書には「改葬の場所」を記載する欄があるためです。先に受入先を決めて契約し、それから申請してください。
Q. 遺骨が複数ある場合、申請は1枚で済みますか?
申請書は遺骨ごとに必要になるのが一般的です。埋蔵証明書も同様です。何体分あるのかを、今の墓地の管理者に確認してから窓口に相談してください。
Q. 受入証明書は、どの自治体でも要りますか?
法令に明文はなく、市町村長が特に必要と認める書類として求める自治体が多い、という位置づけです。要否は自治体で異なります。申請前に窓口へ確認してください。
Q. 墓石はそのまま新しい場所へ運べますか?
運べる場合もありますが、移転先の墓地に寸法やデザインの規定があると設置できません。運搬費もかかります。多くの方は旧墓の墓石を撤去し、移転先で新しく用意しています。
Q. どのくらい期間がかかりますか?
早い場合で2〜3か月です。親族の相談や移転先選びに時間がかかると、半年以上になることもあります。石材店の工事は繁忙期を避けると動きやすくなります。
まとめ|受入先を決めてから、役所へ
迷いやすいところを、もう一度だけ整理します。
- 改葬=遺骨の引っ越し……市区町村長の許可を受けて行います
- 申請先は今お墓がある市区町村……移転先の役所ではありません
- 受入先が先……申請書に「改葬の場所」を書くため、決まらないと申請できません
- 費用は2か所……出ていく側の撤去と、入る側の使用料・年間費用
- 相談が最初……工事のあとで反対されても、元には戻せません
年間17万件を超える手続きですから、窓口も石材店も慣れています。怖がる必要はありません。順番だけ守って進めてください。
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参考情報・外部リンク
- e-Gov法令検索|墓地、埋葬等に関する法律(第2条3項 改葬の定義/第5条 許可/第8条 改葬許可証)
- e-Gov法令検索|墓地、埋葬等に関する法律施行規則(第2条 改葬許可申請の記載事項と添付書類)
- e-Stat|衛生行政報告例 令和6年度 第4章 生活衛生 第6表(全国・都道府県別の改葬数)
- 厚生労働省|衛生行政報告例(統計の索引)
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